第20回「非公式黄リー教道場」へお越しいただき、ありがとうございます!
地味に続けてきたこの道場も、今日で最終回…。
最後のテーマは「W・サマセット・モーム」です。
薬袋善郎先生の新刊が8月27日に発売されますが、これに先立ち、「モーム」の人物像を知っておくのも悪くありませんよね?
というわけで今日もいつも通り、『黄リー教』の実践練習をしながら、W・サマセット・モームの興味深い人生に触れてみましょう!
ルールは次の通り。
- 下記の英文(100語程度)を読んで、構造図を考える
- 理解度をチェックする
- 和訳をチェックする
- 構造図・解説をチェックする
- 面白かったらお友達に紹介する
- 面白くなくても文句を言わない
- 間違いを見つけたら、優しく指摘してあげる
本文
The Summing Up of W. Somerset Maugham’s Varied Life
William Somerset Maugham, a luminary of 20th-century literature, lived a life as riveting as his prose. Initially trained as a physician, Maugham’s medical background profoundly informed his early works. His firsthand encounters with human suffering and frailty lent authenticity and depth to his characters’ struggles, which also reflected his own internal turmoil.
During World War I, Maugham, astonishingly, served as an MI6 operative, conducting espionage. This thrilling chapter of his life deepened his understanding of human nature and heightened the suspense in his narratives, thereby enriching his literary work. His particularly perilous assignments in the tumultuous aftermath of the Russian Revolution in Petrograd significantly infused his espionage novel “Ashenden” with vivid verisimilitude.
Maugham’s variegated existence endowed his writings with realism and tension, elements many believe enthrall readers across generations. It is this intricate persona and adventurous spirit that underpin his lasting allure.
理解度チェック
次の内容が正しければT、正しくなければF、言及されていなければNを選んでください。
※タップすると解答が表示されます。
Maugham trained as a physician and later served as a military doctor.
N
実際にモームは軍医として活動していましたが、本文の中では言及されていません。
Maugham worked as a spy, but he never reflected his experiences in his writings.
F
第2段落全体で述べられているように、モームの諜報員としての活動は彼の作品に多大な影響を与え、特にスパイ小説『アシェンデン』に貢献しました(フィクションではあるものの、実体験を多く含んでいると考えられています)。
It is not uncommon for people to believe that Maugham’s allure lies in the realism and tension of his works.
T
第3段落に「Maugham’s variegated existence endowed his writings with realism and tension, elements many believe enthrall readers across generations.」とあるように、モームの作品におけるリアリズムと緊張感は、世代を超えて読者を惹きつける要素であると多くの人は考えています。
和訳
W・サマセット・モームの多彩な人生を要約すると
ウィリアム・サマセット・モームは20世紀文学の巨匠であり、彼の人生は、彼の作品と同様に興味深いものだった。もともと医師として訓練を受けたこともあり、モームの医療方面のバックグラウンドは、彼の初期の作品に大きな影響を与えた。人間の苦しみや弱さに直接触れた経験は、登場人物たちの苦悩に真実性や深みをもたらしている。登場人物たちの苦悩は、モーム自身の内面の葛藤も反映していた。
第一次世界大戦中、モームは驚くべきことに、MI6の工作員として諜報活動を行っていた。このスリリングな人生の一幕は、彼の人間の本質に対する理解を深めると同時に物語の緊張感を高め、その結果彼の文学作品を豊かなものにした。ロシア革命後の混乱に満ちたペトログラードにおける特に危険な任務は、スパイ小説『アシェンデン』に鮮烈な臨場感を吹き込んでいる。
モームの多彩な人生は、彼の作品にリアリズムと緊張感を与えた。多くの人々は、このリアリズムと緊張感こそが、世代を超えて読者を惹きつける要素であると考えている。彼の永続的な魅力の根底にあるものは、このようなモームの持つ様々な顔と冒険心なのだ。
下記の構造図・解説は、あくまで「英語学習者」である管理人によるものです。誤情報が含まれている可能性もあるため、十分にご注意ください(コメント欄またはTwitter(X)にてご指摘いただけますと幸いです)。
なお構造図・解説はすべて『黄リー教』の内容に基づいています。詳細は『黄リー教』および副教材をご確認ください。
構造図
cj…従属接続詞
+ad…誘導副詞
+S…真主語
-S…仮主語
+O…真目的語
-O…仮目的語
解説
第1段落
William Somerset Maugham, a luminary of 20th-century literature, lived a life as riveting as his prose. Initially trained as a physician, Maugham’s medical background profoundly informed his early works. His firsthand encounters with human suffering and frailty lent authenticity and depth to his characters’ struggles, which also reflected his own internal turmoil.
luminaryは名詞が余っている状態で、働きはWilliam Somerset Maughamの同格です[黄リー教: P91 6-12]。
lived a lifeは同族目的語を用いた表現で、このlivedは③として使われています[実践演習: 53]。
as riveting as his proseは「as 原級 as」を用いた比較表現です。1つ目のasは「~と同じくらい」という意味を持つ副詞で、rivetingを修飾しています。2つ目のasは従属接続詞で、as~proseの副詞節が1つ目のasを修飾しています。「~と同じくらい」の「~と」に当たる部分が、この副詞節です。今回の文では「彼の作品(が興味深いの)と同じくらい」という意味になります。なお比較で用いられる従属接続詞のasや関係代名詞のasが作る従属節の内側は、大部分が省略される傾向にあります。この文でもasの内側にhis proseしか残っていませんが、実際には「his prose is riveting」が省略されたものです。
trainedは裸のp.p.で、ここでは過去分詞の分詞構文です[黄リー教: P432 20-7](名詞修飾や補語ではないため、少なくとも過去分詞形容詞用法の可能性はありません)。意味を考えると、医師として訓練を受けたのは「モーム」です。しかし主節の主語は「background」なので、主語が一致していません。この場合、本来であれば独立分詞構文になるはずです[黄リー教: P213 12-10]。ところが実際には、trainedの意味上の主語がモームであることは確定的であり、読み違える心配がほとんどありません(むしろ主語がモームでないとすると、意味が成立しないほどです)。このような場合、主節の主語と一致していなくても、分詞構文の意味上の主語が省略されることがあります。
informには「③影響を与える」という意味があります。
whichは非制限用法の関係代名詞です[黄リー教: L13, P249 13-8]。外側はwhich~turmoilが形容詞節で名詞修飾(struggles)、内側では主語の働きをしています。「モームの経験が登場人物たちの苦悩に真実性や深みをもたらした」と述べたうえで、strugglesの部分だけを取り出し、「同時にその苦悩というものは、登場人物の苦悩であるだけでなく、モーム自身の葛藤も反映している」と情報を追加しているわけですね。
第2段落
During World War I, Maugham, astonishingly, served as an MI6 operative, conducting espionage. This thrilling chapter of his life deepened his understanding of human nature and heightened the suspense in his narratives, thereby enriching his literary work. His particularly perilous assignments in the tumultuous aftermath of the Russian Revolution in Petrograd significantly infused his espionage novel “Ashenden” with vivid verisimilitude.
conductingは現在分詞の分詞構文です[黄リー教: P208 12-7]。意味は「付帯状況」で、述語動詞のservedを修飾しています(付帯状況の詳細は第1回を参照してください)。
enrichingも現在分詞の分詞構文で、意味は「付帯状況」、述語動詞のdeepenedとheightenedを修飾しています。
第3段落
Maugham’s variegated existence endowed his writings with realism and tension, elements many believe enthrall readers across generations. It is this intricate persona and adventurous spirit that underpin his lasting allure.
elementsは名詞が余っている状態で、働きはrealism and tensionsと同格です。realism and tensionsに直接修飾要素をつけるのではなく、一旦elementsと言い換えて、主節と分離させてから、改めて説明を加えているわけですね。
「elements many believe enthrall readers across generations」はかなり難解です。まず前述のように、elementsは同格の名詞で、many~generationsがelementsを修飾しています。またこのmanyは形容詞が代名詞に転用されたもので、「多くの人々」を表しています。しかしmany以降に動詞が2つ並んでいたり、主語とみなせる名詞が足りなかったりして、構造がよく分かりません。先に答えをいってしまうと、「many believe enthrall readers across generations」は連鎖関係詞節で、先行詞のelementsを修飾しています。elementsを「many believe that elements enthrall readers across generations」という文で説明する場合、まずはthat節内のelementsを関係代名詞のwhichに変え、先頭に移動します。続いてthat節のthatを省略すると、「elements which many believe elements enthrall readers across generations」という文になります。さらに連鎖節の場合は、内側で主語になっている関係代名詞を省略できるという特別なルールがあります[実践演習: 226]。そこでwhichを省略すると、「elements many believe elements enthrall readers across generations」という本文と同じ構造が完成します。連鎖節を考える上で重要なポイントは、連鎖節に関する知識だけでなく、そもそも構造の「不自然さ」に気付くかどうかです。今回の文においては、believeとenthrallという2つの動詞があります。どちらも「原形動詞を使うところ」に該当しないため、現在形=述語動詞であることが分かります。つまり「2つのVのルール」に違反しています。それ以外にも、例えばelementsを主語にすると、今度は「2つのSVのルール」に違反する、しかしelementsを主語にしないと、主語になりうる名詞の数が足りない…等々、この文は複数の「矛盾」を抱えています。この矛盾の1つ1つが、逆に連鎖節の可能性を考えさせるきっかけに繋がるのです。連鎖節を学ぶときは単に知識を身に着けるだけでなく、「そもそも文の構造に正しく向き合えていたかどうか」、その点も併せて確認するようにしましょう。
「It is this intricate persona and adventurous spirit that underpin his lasting allure.」は強調構文(分裂文)です[実践演習: 200]。It is 名詞 that SVという形の文で、that以下が不完全な文の場合は、強調構文と判断できます。逆に完全な文の場合は、Itが仮主語、that節が真主語の英文です。今回の英文を見ると、that以下が「主語の欠けた不完全な文」になっています。また強調構文の場合、It is + thatを除くと完全な文になりますが、この英文についてもIt is + thatを除くと「This intricate persona and adventurous spirit underpin his lasting allure.」という完全な文が完成します。意味的にも矛盾はないため、この英文は強調構文であると判断できます。
余談
本文にもあったように、W・サマセット・モームは医師やスパイなど、かなり目を見張る人生を送ったようです。しかし今回の英文では触れていない、もう1つ重要な側面があります。
それはモームの「旅人」としての顔です。
モームは生涯にわたり、アジア、そして日本を含め、文字通りに世界各国を訪れました。今ほどに海外旅行も容易ではなく、当然に船で移動する時代ですから、その背景にはよほどの好奇心があったのでしょう。
単に頭の中で描いた空想の価値観ではなく、異文化に直接触れることで、モーム特有の鋭い感性はさらに磨かれていったはずです。
薬袋先生が新作の題材に取り上げた『コスモポリタンズ』は、まさにモームの「国際人」としての経験が、顕著にちりばめられた作品といえます。
発売が楽しみで仕方ありませんね。
それでは、
全20回にわたってお届けした「非公式黄リー教道場」も、これで終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。読者の皆様の存在が励みになりました。
いずれ機会があれば、また『黄リー教』実践の場を設けたいと思います。是非その時に、再びお会いしましょう。
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