第19回「非公式黄リー教道場」へお越しいただき、ありがとうございます!
今回のテーマは「J・S・ミル」です。
ミルの『自由論』といえば、『黄リー教』著者の薬袋善郎先生がライフワークとして取り組んでいる古典作品です。
でも「ミルって誰…?何をした人…?」と疑問を持つ方も多いはず。
そこで今日は、いつものように『黄リー教』の練習をしながら、J・S・ミルについて学んでみましょう!
ルールは次の通り。
- 下記の英文(100語程度)を読んで、構造図を考える
- 理解度をチェックする
- 和訳をチェックする
- 構造図・解説をチェックする
- 面白かったらお友達に紹介する
- 面白くなくても文句を言わない
- 間違いを見つけたら、優しく指摘してあげる
本文
John Stuart Mill: Architect of Modern Liberalism
John Stuart Mill, a prominent philosopher, economist, and political theorist of 19th-century Britain, whose extensive works and innovative ideas have earned widespread recognition, advanced the philosophy of utilitarianism and constructed significant theories concerning individual liberty and social justice.
Central to modern democracy and human rights thought is Mill’s principle of liberalism; his ‘On Liberty’ provides a fundamental framework for defending individual rights and freedoms, influencing legal systems and political movements. Particularly in debates regarding freedom of expression and privacy, Mill’s ideas are frequently cited.
In ‘The Subjection of Women,’ Mill, who passionately argued for the enhancement of women’s social status and the necessity of equal rights, insisted that women, who deserve equal access to education and professional opportunities, be no longer subjected to a subordinate position in marriage, which he thoroughly critiqued.
理解度チェック
次の内容が正しければT、正しくなければF、言及されていなければNを選んでください。
※タップすると解答が表示されます。
John Stuart Mill is widely recognized for founding the philosophy of utilitarianism.
F
第1段落に「John Stuart Mill … advanced the philosophy of utilitarianism」とあるように、ミルは功利主義を「発展」させたのであって、創始したわけではありません。功利主義の創始者はジェレミー・ベンサムです。
Mill’s principle of liberalism is cited particularly in debates regarding freedom of expression and privacy.
T
第2段落で「Particularly in debates regarding freedom of expression and privacy, Mill’s ideas are frequently cited.」と述べられているように、ミルの自由主義の原則は、特に表現の自由やプライバシーに関する議論において引用されています。
Mill severely critiqued the subordinate position imposed on women in marriage.
T
第3段落に「Mill … insisted that women … be no longer subjected to a subordinate position in marriage, which he thoroughly critiqued.」とあるように、ミルは女性が結婚の隷属的な地位から抜け出せないことを厳しく批判しました。
和訳
ジョン・スチュアート・ミル: 現代自由主義の設計者
ジョン・スチュアート・ミルは19世紀イギリスの著名な哲学者・経済学者・政治理論学者であり、多岐に渡る著作と革新的な思想によって広く認知されているが、彼は功利主義の哲学を発展させ、個人の自由および社会正義に関する重要な理論を構築した。
現代の民主主義と人権思想の中心には、ミルの自由主義の原則がある。『自由論』は個人の権利と自由を擁護するための基本的な枠組みを示し、法制度や政治活動に影響を与えた。特に表現の自由やプライバシーに関する議論では、ミルの思想が頻繁に引用されている。
女性の社会的地位の向上と男女平等の必要性を熱心に主張したミルは、『女性の解放』の中で、女性が教育と職業の機会を等しく享受するに値するものであり、彼が徹底的に批判した結婚における隷属的な地位に、女性がこれ以上拘束されないことを求めた。
下記の構造図・解説は、あくまで「英語学習者」である管理人によるものです。誤情報が含まれている可能性もあるため、十分にご注意ください(コメント欄またはTwitter(X)にてご指摘いただけますと幸いです)。
なお構造図・解説はすべて『黄リー教』の内容に基づいています。詳細は『黄リー教』および副教材をご確認ください。
構造図
cj…従属接続詞
+ad…誘導副詞
+S…真主語
-S…仮主語
+O…真目的語
-O…仮目的語
解説
第1段落
John Stuart Mill, a prominent philosopher, economist, and political theorist of 19th-century Britain, whose extensive works and innovative ideas have earned widespread recognition, advanced the philosophy of utilitarianism and constructed significant theories concerning individual liberty and social justice.
第1段落は1つの英文で構成されています。主節の主語はJohn Stuart Millで、大黒柱はadvancedとconstructedです。
「a prominent philosopher, economist, and political theorist」は名詞が余っている状態で、働きはJohn Stuart Millと同格です[黄リー教: P90 6-11, P91 6-12]。このように名詞の直後に同格の名詞を挿入して、簡易的に説明を加えることがよくあります。
whoseには疑問形容詞と関係形容詞の可能性がありますが、このwhoseは関係形容詞です[黄リー教: P269 14-3, P393 19-4]。外側はwhose~recognitionが形容詞節で名詞修飾(John Stuart Mill)、内側の働きも名詞修飾(works, ideas)です。
have earnedは現在完了形で、意味は「完了」です[黄リー教: P156 9-4]。ミルの作品や思想が単に過去に認知されただけでなく、今も影響を及ぼしていることを、現在完了形によって表しています。
concerningは「~について、~に関して」という意味の前置詞です。
第2段落
Central to modern democracy and human rights thought is Mill’s principle of liberalism; his ‘On Liberty’ provides a fundamental framework for defending individual rights and freedoms, influencing legal systems and political movements. Particularly in debates regarding freedom of expression and privacy, Mill’s ideas are frequently cited.
Centralという形容詞から始まっており、働きが名詞修飾ではない=補語であることから、「倒置」か「beingが省略された分詞構文」と考えられます[黄リー教: P216 12-12]。to~human rights thoughtは副詞句で、Centralを修飾しています。すると残ったのは動詞のisと(Mill’s) principle (of liberalism)という名詞句です。isは現在形なので、述語動詞です[黄リー教: P202 12-2]。isの主語に当たる名詞はprincipleしかありません[黄リー教: P20]。よってprincipleが主語、isが述語動詞、そしてisの補語をCentralと考えれば、完全な文になります。つまりこの文は「Mill’s principle of liberalism is central to modern democracy and human rights thought.」が倒置したものです。ちなみに無理やり「beingが省略された分詞構文」と考えると、「(Being) central to modern democracy and human rights thought, is Mill’s principle of liberalism」のような形になりますが、「is Mill’s principle of liberalism」が倒置する理由が分からず、「ミルの自由主義の原則は、現代の民主主義と人権思想の中心にあり、そして(ミルの自由主義の原則)は存在している」という意味の通らない文になってしまいます。なおthoughtは純粋な名詞で、thinkの過去分詞形ではありません。裸の過去分詞形だとすると「過去分詞形容詞用法」か「分詞構文」になりますが、どちらの場合も意味が通らず、不適当です[黄リー教: L20]。
defendingは動名詞で、forの目的語になっています[黄リー教: P362 18-2]。
influencingは現在分詞の分詞構文で、意味は「付帯状況」です[黄リー教: P208 12-7]。「付帯状況」の詳細は、第1回をご確認ください。
第3段落
In ‘The Subjection of Women,’ Mill, who passionately argued for the enhancement of women’s social status and the necessity of equal rights, insisted that women, who deserve equal access to education and professional opportunities, be no longer subjected to a subordinate position in marriage, which he thoroughly critiqued.
第3段落も1つの英文で構成されており、複数の関係詞節や従属接続詞節が複雑に絡み合っています。それぞれの従属節の外側に注意しながら読み進めましょう。
1つ目のwhoは非制限用法の関係代名詞です[黄リー教: L13, P249 13-8]。外側はwho~rightsが形容詞節で名詞修飾(Mill)、内側で主語の働きをしています。なお関係詞が固有名詞を修飾するときは非制限用法になります(第1段落のwhoseも同じ理由で非制限用法の関係形容詞として用いられています)。
主節の主語のMillに対する述語動詞(大黒柱)はinsistedです。insistedの後ろのthatは従属接続詞で、that~critiquedが名詞節を作っています。働きはinsistedの目的語です[黄リー教: P321 17-4]。
続いてthatの内側に注目してみましょう。womenが構造上の主語で、述語動詞はbe subjectedです。be subjectedは原形の動詞で、「原形動詞を使うところ」の5つの可能性のうち、「仮定法現在」に当たります[黄リー教: P86, 371]。insistedが「命令・要求・提案を表す動詞」に該当するため、that節内の動詞が原形になっているのです。
2つ目のwho(that節の中のwho)は非制限用法の関係代名詞です。外側はwho~opportunitiesが形容詞節で名詞修飾(women)、内側では主語の働きをしています。制限用法にすると、womenの中に関係詞節の内容が当てはまる人とそうでない人がいることになってしまいます。この文ではすべての女性について言及しているため、非制限用法が適当です。また内側のdeserveには「時制の一致」が起こらず、現在形が使われています。これは「不変の真理」を表すときに、現在形を用いるからです。
whichは非制限用法の関係代名詞で、外側はwhich~critiqued、内側の働きはcritiquedの目的語です。先行詞には複数の可能性があるため、意味(事柄)を踏まえて判断する必要があります。たとえば直前のmarriageを先行詞とすると、ミルが結婚自体を批判していることになってしまい、文意が成立しません。主節全体を先行詞とすることもできますが、「ミルは女性が結婚における隷属的な地位に拘束されるべきでないと主張し、そのこと(拘束されるべきでないと主張していること)を徹底的に批判している」となり、これも意味が通じません。この英文におけるwhichの先行詞は「(a subordinate) position (in marriage)」です。これを先行詞とすると、「ミルは結婚における(女性の)隷属的な地位というものを徹底的に批判している。そしてその、ミルが批判するところの隷属的な地位に女性がこれ以上拘束されるべきでないと主張している」となり、文意(事柄)が成立します。
余談
J・S・ミルは現代の自由主義、民主主義、さらに女性の権利に対し、多大な影響を与えていることが分かりましたね。
ちなみにミルというと、「幼少期に父親から受けた教育」が話題になることもよくあります。
ミルの父親も同じく哲学者で、ミルは幼いころから同世代の子どもたちとの接触を禁じられ、学校にも通わず、3歳から古典ギリシア語を学び、8歳の時にヘロドトスを読み、その他数学、物理学、天文学、経済学など様々な学問を父親に教え込まれていたようです。
また本を読むたびに父親からいくつも鋭い質問を投げかけられ、この日々の問答が、ミルの驚異的な「思考力」につながったといわれています。
ミルの思想が現代社会の基盤となった一方で、果たしてミルの思い描いた自由主義がどこまで実現しているのか、定かではありません。
むしろ「自由」という言葉だけが独り歩きし、中身を失った悪意ばかりが蔓延っているような気もします。
そんな今だからこそ、ミルの『自由論』に触れて、改めて自由の意味を考えてみるのもいいかもしれませんね。
「ミルの『自由論』を読んでみたい!」という方は、ぜひ薬袋先生の『ミル「自由論」 原書精読への序説』を手に取ってみてくださいね!
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