第11回「非公式黄リー教道場」へお越しいただき、ありがとうございます!
今回のテーマは「農業革命」。
「食糧生産革命」「新石器革命」等と呼ばれることもありますが、ようするに狩猟採集社会から農耕社会への変革を表した言葉です。
私たちが歴史を習うとき、農耕社会への移行は「人類最大の進歩」として語られますよね。一方で現在私たちの抱えているほぼすべての問題は、この農業革命に起因するという見方もあります。
というわけで今回も、『黄リー教』のトレーニングをしながら、農業革命のもう一つの真実を探ってみましょう。
ルールはいつも通り!
- 下記の英文(100語程度)を読んで、構造図を考える
- 理解度をチェックする
- 和訳をチェックする
- 構造図・解説をチェックする
- 面白かったらお友達に紹介する
- 面白くなくても文句を言わない
- 間違いを見つけたら、優しく指摘してあげる
本文
Another Truth of the Agricultural Revolution
Contrary to the conventional narrative, the advent of agriculture, which many believe heralded human progress, precipitated significant challenges.
Hunter-gatherer societies, whose diets were diverse and nutritionally varied, often faced less risk of food shortages compared to agrarian societies. The transition to agriculture led to a reliance on monoculture, resulting in nutritional deficits and increased susceptibility to famine.
With the concept of land ownership came profound social inequalities, concentrating wealth and power. Exacerbated, too, were territorial conflicts and warfare, contrasting with the more mobile nature of hunter-gatherer communities.
Furthermore, agriculture fostered envy, jealousy, and competition, impacting psychological well-being.
While agriculture brought advancements, it also necessitates a nuanced reassessment of its legacy.
理解度チェック
次の内容が正しければT、正しくなければF、言及されていなければNを選んでください。
※タップすると解答が表示されます。
The transition from hunter-gatherer societies to agrarian societies reduced the risk of food shortages for humans.
F
第2段落に「Hunter-gatherer societies, whose diets were diverse and nutritionally varied, often faced less risk of food shortages compared to agrarian societies.」とあるように、農耕社会よりも狩猟採集社会の方がむしろ「less risk=リスクが低かった」ことが分かります。
One of the negative impacts brought by agrarian societies is the intensification of warfare.
T
第3段落で「Exacerbated, too, were territorial conflicts and warfare」と述べられているように、農耕社会への移行は土地所有の概念を生み出し、これによって紛争・戦争が悪化しました。
Agriculture even affected psychological well-being.
T
第4段落に「agriculture fostered envy, jealousy, and competition, impacting psychological well-being.」とあるように、農耕社会への移行は人間の心理的な幸福感にすら影響を与えています。
和訳
農業革命のもう一つの真実
従来の物語とは対照的に、人類の進歩の前触れになったと多くの人が信じている農業の出現は、重大な問題を引き起こした。
狩猟採集社会では、その食事は多様かつ栄養も豊富で、農耕社会に比べると食糧不足のリスクは大抵の場合少なかった。
しかし農業への移行は単一栽培への依存を招き、その結果、人々は栄養不足に陥り、飢饉の可能性も増した。
土地所有の概念に伴い、富と権力が集中することで、深刻な社会的不平等が招かれた。より移動を繰り返す狩猟採集社会の性質と対照的に、領土紛争や戦争も激化した。
さらに農業は羨望、嫉妬、競争を助長し、心理的な幸福感に影響を及ぼした。 農業は進歩をもたらしたが、その遺産を多角的な視点から再評価することも必要である。
下記の構造図・解説は、あくまで「英語学習者」である管理人によるものです。誤情報が含まれている可能性もあるため、十分にご注意ください(コメント欄またはTwitter(X)にてご指摘いただけますと幸いです)。
なお構造図・解説はすべて『黄リー教』の内容に基づいています。詳細は『黄リー教』および副教材をご確認ください。
構造図
cj…従属接続詞
+ad…誘導副詞
+S…真主語
-S…仮主語
+O…真目的語
-O…仮目的語
解説
第1段落
Contrary to the conventional narrative, the advent of agriculture, which many believe heralded human progress, precipitated significant challenges.
「which many believe heralded human progress」は連鎖関係詞節です[実践演習: 226]。believeの後ろには従属接続詞のthatが省略されていて、理論上の構造を考えると、that節の内側がwhich heralded human progressになっています(「many believe (that) which heralded human progress」)。しかし関係詞は原則として文頭に置かなければいけないため、関係代名詞のwhichだけがthat節の外に出て、結果的に「which many believe (that) heralded human progress」という形になっているわけですね。なお連鎖関係詞節の場合、主格の関係代名詞であっても省略できますが(実際に省略されることがよくあります)、今回は非制限用法なので省略できません[黄リー教: P249 13-8]。
第2段落
Hunter-gatherer societies, whose diets were diverse and nutritionally varied, often faced less risk of food shortages compared to agrarian societies. The transition to agriculture led to a reliance on monoculture, resulting in nutritional deficits and increased susceptibility to famine.
whoseは非制限用法の関係形容詞で、外側はwhose~variedが形容詞節で名詞修飾(Hunter-gatherer societies)、内側の働きは名詞修飾(diets)です[黄リー教: P269 14-3]。
comparedは過去分詞の分詞構文で(コンマが省略されています)、前の働きは動詞修飾です[黄リー教: P432 20-7]。意味は「条件」と考えられそうですね。なおcompared to A(「Aと比べて」)を実質的に前置詞のように扱っても差し支えないと思います。
resutlingは現在分詞の分詞構文で、「付帯状況」の意味を表しています[黄リー教: P208 12-7]。「led to a reliance on monoculture and resulted in…」と同義と考えると分かりやすいですね。付帯状況の分詞構文の前の働きは、「文修飾」でも問題ありません。詳細は第1回でまとめています。
第3段落
With the concept of land ownership came profound social inequalities, concentrating wealth and power. Exacerbated, too, were territorial conflicts and warfare, contrasting with the more mobile nature of hunter-gatherer communities.
「With the concept of land ownership」という前置詞句で始まり、主語がなくcameと続いていることから(land ownershipは前置詞の目的語)、倒置の文であることが分かります。主語はinequalitiesで、本来は「Profound social inequalities came with the concept of land ownership」という文です。
concentratingは現在分詞の分詞構文で、「付帯状況」の意味を表しています(and concentratedと同義)。
2文目の「Exacerbated, too, were territorial conflicts and warfare…」はExacerbatedという動詞で始まっています。過去形か過去分詞形の可能性がありますが、過去形が文頭に置かれることは通常はありません。また裸の過去分詞形が主語になることはないため(主語になる品詞は名詞のみ→裸のp.p.が名詞の働きをすることはない)[黄リー教: P412 20-2]、「過去分詞の分詞構文か倒置かもしれない…」などと予測できます(可能性としては他に「過去分詞形容詞用法」も考えられます)。読み進めてみると、wereと名詞が続いていますね。そこで「Territorial conflicts and warfare were exacerbated」という受身の文の倒置と考えると、構造的にも意味的にも成立します。またwereがある時点で裸の過去分詞の可能性がなくなる=分詞構文ではないことも分かりますね。なお受身の文の倒置は第6回にも登場しています。
tooは副詞ですが、名詞を修飾できます。この英文では「territorial conflicts」と「warfare」を修飾し、「(社会的な不平等さだけでなく)領土紛争や戦争”も”悪化した」という意味になります。
contrastingは現在分詞の分詞構文で、意味は「時」または「条件」と考えられそうです。
mobileは社会的な流動性ではなく、文字通り「移動する」ことを表しています。また比較級のmoreがあるにもかかわらず比較対象が明示されていませんが、ここに省略されているのは、もちろん「than agrarian communities」です。狩猟採集社会において、人々は食料を追って頻繁に移動を繰り返します。一方農耕社会では、人々は一つの場所に定住しており、また農耕用の広大な土地を確保しなければいけません。すると肥沃な土地をめぐる争いは当然に激化します。これらを踏まえて文意を整理すると「(農耕社会よりも)転々と移動する狩猟採集社会と対照的に、(土地の所有を基礎とする農耕社会では)領土紛争や戦争”も”悪化した」という意味になります。
第4段落
Furthermore, agriculture fostered envy, jealousy, and competition, impacting psychological well-being.
impactingは現在分詞の分詞構文で、「付帯状況」の意味を表しています。
第5段落
While agriculture brought advancements, it also necessitates a nuanced reassessment of its legacy.
Whileは従属接続詞で、While~advancementsが副詞節で動詞修飾、内側の働きはありません[黄リー教: P189 11-6]。
nuancedを辞書で引くと「微妙な」と訳されていることが多くありますが、それでは意味がよく分かりませんね。そこでいくつか例文を確認してみると、nuancedは「様々なニュアンスを含んでいる」という意味を表しており、言い換えると「文脈や背景によって意味が変わる」旨を暗示していることが分かります。今回の文でも、「確かに農業革命は人類の発展に大いに貢献したが、一方で、破滅的で取り返しのつかない影響ももたらしたことから、常に良いものとして捉えるのではなく、多角的な視点で再評価すべきだ」といった内容を表しているわけですね。
余談
「農業革命」の負の側面はルソーの『人間不平等起源論』で言及されており、近年では『サピエンス全史』を通じて知った人も多いかもしれませんね。
農耕社会への移行を機に、人類はめまぐるしい速度で文明を進化させ、今のこの世界を作り出しました。
一方で人類そのものは、生物として進化しているわけではありません。むしろ狩猟採集時代と変わらぬ精神を抱えたまま、自動化された文明に振り回されています。
現代人が時折抱く途方もない虚しさは、もしかすると、自分が誕生した頃の風景と、現代文明がもたらした理想郷との乖離に起因しているのかもしれませんね。
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