「働き」は『黄リー教』の中で最も重要な概念の1つです。
ただ、もしかすると…
ある語が他の語に対して持つ関係
という定義だけでは、その奥深さのすべてが伝わらないかもしれません…。
そこで「働き」の性質に注目しながら、この定義をより深く追求してみたいと思います。
働きの3つの性質
「働き」には次のような3つの性質があります。
- ある語の働きは他の語との関係によって決まる
- ある語の働きは必ず1つに決まる
- ある語の働きを変えると、連動して他の語の働きも変わってしまう
この性質について、「apple」という「名詞」を例に考えてみましょう。
ある語の働きは他の語との関係によって決まる
名詞の働きには「主語、動詞の目的語、前置詞の目的語、補語、同格、副詞的目的格」の6つの可能性があります。
では「apple」の場合、この6つの中から、どの働きを選べばよいのでしょうか?
たとえば「I ate an apple.」という文を考えてみましょう。「ate」は③の他動詞です。③の他動詞に付く名詞は「動詞の目的語(O)」になります。また「apple」は主語である「I」とイコールではありませんから、これも「動詞の目的語」になる条件を満たしていますよね。そのため、この文の中の「apple」の働きは「動詞の目的語」に決まります。
続いて「This is an apple.」ではどうでしょうか?「is」は②の自動詞ですから、「is」に付く名詞は「補語(C)」になります。また「apple」は主語の「This」とイコールの関係になっているので、この場合も「補語」の条件に合致します。よってこの文の中では「補語」です。
「She made a pie with an apple.」であれば「with」という前置詞に付いていますから、「前置詞の目的語」ですよね。
一方で「apple」という単語がポツンと1つだけ置かれている状況はどうでしょう。この場合、「apple」の働きを決めることはできません。6つの可能性があることは分かっても、その中から1つを選び出すだけの根拠がないからです。
このように「apple」の働きは、「apple」自身で決めることができません。「他の語」との「関係」があって初めて、「動詞の目的語」になったり「補語」になったりするのです。
これが「ある語の働きは他の語との関係によって決まる」という意味です。
ある語の働きは必ず1つに決まる
「I ate an apple.」の例でいうと、「apple」の働きが「動詞の目的語」以外になる可能性はありません。
仮に「補語」だとすると、他動詞である「ate」や主語の「I」との関係に矛盾が生じてしまいます(他動詞に補語が付くことはないし、I=appleも成立しない)。
「ate(述語動詞)」の主体となる名詞に該当しないため、「主語」にもなれませんし(そもそも主語の「I」が存在する)、もちろん「前置詞の目的語」でもありません。
この「apple」の働きが「動詞の目的語」に決まる理由は、「動詞の目的語」の条件に一致するから、というより、それ以外のすべての条件に該当しないから、といった方がより正確かもしれません。
これは「It is an apple.」や「She made a pie with an apple.」の例文でも同様の説明ができますよね。
ようするに、「ある語の働きは必ず1つに決まり、同時にそれ以外の可能性はすべて排除される」ということです。
もし1つに決まらないのだとしたら、それは1つに確定するだけのヒントが足りていないか、もしくは他の語の働きを誤って解釈しているのかもしれません。
※例外的に準動詞は2つの働きを持ちますが、その場合でも、2つの働きの組み合わせは必ず1つに決まります。
ある語の働きを変えると、連動して他の語の働きも変わってしまう
たとえば、
のような文があったとします。この場合、「apple」は「動詞の目的語(O)」ですね。
現時点で何もオカシイところはありません。
ではこの文の「動詞の働き」が、実は③ではなく②だったとしましょう。
すると②の動詞に「動詞の目的語(O)」が付くことはありませんから、もはや「apple」も「動詞の目的語」のままではいられません。動詞の働きに連動して、「apple」の働きも変得る必要があります。この場合は「補語(C)」ですね。
「働き」は他の語との関係によって決まるため、このように1つの語の働きを変えると、関係を持っていたすべての語との間に矛盾が生じてしまいます。
しかも1つの矛盾を修正した結果、別の矛盾が生まれ…といった具合に、芋づる式に影響を及ぼす可能性も…。
このような性質は、まさに「数独」と同じですね。
英文を正しく理解するための方法
上記の3つの性質を通じて、
ある語の「働き」は、他の語との「関係」によって「相対的」に決まる
ことが分かりましたね。
そして『黄リー教』における「働き」の定義は、
ある語が他の語に対して持つ関係
でした。これはまさに、
- ある語が他の語に対してどのような関係を持っているか
- ある語の働きは他の語との関係によって(1つに)決まる
- ある語の働きが変われば、他の語の働きも変わる
という「働き」のそれぞれの側面を表しているのです。
英文を構成するすべての語は、互いの「働き」に影響を与えながら、非常に複雑に絡み合っています。
この「働き=関係」を紐解くことなしに、英文を正しく読むことはできません。
幸いなことに、働きには「必ず1つに決まる」という性質があります。言い換えれば、「必ず答えがある」ということです。
英文は、読み手によって解釈が変わってしまうようなあやふやなものではありません。1つの英文は常に1つの意味しか持ちません。そうでなければ、そもそもコミュニケーションが取れませんからね。
つまり英語を正しく理解したい人にとって、何よりも知っておくべき情報は、その「1つしかない答え」にたどり着くための方法です。
『黄リー教』では、全21レッスンを通じて、働きを紐解くために必要な知識を学んでいきます。
各レッスンを勉強するときは、これらの趣旨を念頭にテキストを読むと、よりスムーズに、そして正確に学習内容を理解できるはずです。
以上が「働き」に関する補足説明になります。
上記の説明はあくまで筆者個人の考えであり、『黄リー教』の趣旨から外れる部分があるかもしれません。
ただし「働き」が、他の語との関係によって相対的に変化するという点は、少なくとも間違いないでしょう。
冒頭でも述べましたが、「働き」は『黄リー教』の「核」となる概念であり、同時に、最も面白い要素でもあります。
『黄リー教』をより深く理解したい方は、ぜひこの「働き」という概念を追求してみてください。
それでは、また別の記事でお会いできることを楽しみにしています!
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